インターネットが普及したことで、「業務委託」という仕事の受注契約が広がっています。現在、企業同士の業務委託だけでなく、フリーランスや個人事業主に対して企業が業務委託するケースも見られます。
業務委託は自由度が高い働き方ですが、同時に大きな責任を負うこととなります。正しく業務委託について理解し、契約書を作成しておかないと、後からトラブルになることもあるため注意が必要です。
今回は、「業務委託」の概要とほかの契約形態との違いを解説します。また、業務委託契約書の作り方や注意点もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
業務委託とは?
「業務委託」とは、業務の一部またはすべてを外部の企業や個人に依頼することです。たとえば業務委託契約書に基づき、製品の製造を外部の工場に依頼するなどです。
業務委託では、仕事を任せる側(委託者)と引き受ける側(受託者)とで雇用関係を結ばず、対等な立場で取引をします。なお「業務委託契約」という言葉は法律で定義されていないため、契約書によって細かい条件を定める必要があります。
業務委託契約の種類および関連法律は、以下の3種類です。
- 請負契約(民法632条)
- 委任契約(民法643条)
- 準委任契約(民法656条)
業務委託では指揮命令権は発生せず、成果物の完成責任がある「請負契約」と、完成責任のない「委任/準委託契約」とに分けられます。
業務委託契約の「請負契約」「委任/準委任契約」の違い
「請負契約」では、成果物を完成させることで報酬を受け取ります。たとえば、システムエンジニアが定められた納期までに、発注通りのプログラムを完成させて報酬を受け取るといった契約です。
それに対して「委任/準委任契約」は、契約期間中の断続的な業務行為に対し、決まった額の報酬を受け取る契約です。たとえば企業の受付や事務作業など、成果物が設定できない業務に関し、一定の期間にわたる業務遂行が委任されるような契約です。
委任と準委任の違いは「民法656条」で定められています。業務内容が弁護士などの士業が行う法律行為ならば「委任契約」、コンサルタントなどの法律行為でない業務であれば「準委任契約」となります。
業務委託契約の3つの種類
業務委託契約には、大きく以下の3つの種類があります。
請負契約 | 委任契約 | 準委任契約 | |
成果の対象 | 納品物 | 法的な業務行為 | 一定の業務行為 |
成果物の完遂責任 | あり | なし | なし |
適用法 | 民法632条 | 民法643条 | 民法656条 |
具体例 | プログラマー デザイナー イラストレーター | 弁護士 税理士 司法書士 | 研究業 コンサルタント ドライバー |
総じて「業務委託」と呼びますが、それぞれ責任や報酬が発生する条件などが異なります。ここでは、各契約形態の概要を詳しく解説します。
請負契約
成果の対象 | 納品物 |
成果物の完遂責任 | あり |
適用法 | 民法632条 |
具体例 | プログラマー デザイナー イラストレーター |
「請負契約」とは、委託した業務の成果物に対して報酬が発生する契約です。成果物の提供を目的としているため、仕事の過程は問われません。
しかし、逆の見方をすると、仕事を進めていても成果物を完成させられなかったり、品質に問題があったりすると報酬が発生しません。また、請け負った業務を完遂できない債務不履行によって、委託者に損害が生じた場合は、損害賠償請求へ発展するケースもあります。
なお、請負契約は、主に以下のような職種で締結されることが多いです。
- プログラマー
- デザイナー
- イラストレーター
- ライター
- 営業 など
具体的には、「○月〇日までに××のプログラムを構築したうえで納品すると△△の報酬が発生」といった契約です。
委任契約
成果の対象 | 法的な業務行為 |
成果物の完遂責任 | なし |
適用法 | 民法643条 |
具体例 | 弁護士 税理士 司法書士 |
委任契約とは、契約期間内の断続的な業務行為に対して報酬が発生する契約です。請負契約とは異なり、成果物の完成責任は負いません。
なお、後述する準委任契約と非常に似た契約形態ですが、対象となる業務が異なります。委任契約は、税務や法務などの法律行為を委託する場合の契約であるのに対し、準委託契約は法律行為以外の業務を受託する場合に締結します。
したがって、委任契約の対象となる職種は、主に以下のとおりです。
- 弁護士
- 税理士
- 司法書士 など
たとえば、「税理士の顧問契約を月額○○円で締結する」などが挙げられます。
準委任契約
成果の対象 | 一定の業務行為 |
成果物の完遂責任 | なし |
適用法 | 民法656条 |
具体例 | 研究業 コンサルタント ドライバー |
準委任契約とは、契約期間内の断続的な業務行為のうち、法律行為以外を対象とした契約です。委任契約と同様に、成果物の完成責任は負いません。
準委任契約は、法律的な行為を取り扱わない以下のような職種で締結されます。
- 研究業
- コンサルタント
- ドライバー
- 美容師
- 事務 など
たとえば、「○ヵ月の間のコンサルタント契約を月額××円で締結する」などです。
業務委託契約と他の契約形態の違い・関係性
企業活動に必要な業務は、主に「雇用契約」「派遣契約」「業務委託契約」の3つの契約形態で遂行されます。業務委託とほかの契約形態との違いは、以下のとおりです。
雇用契約 | 派遣契約 | 業務委託契約 | |
雇用主 | 就業先の企業 | 派遣会社 | なし |
指揮命令権 | あり | あり ※派遣契約の範囲内 | なし |
成果物の完成責任 | なし | なし | あり |
契約期間 | 無期雇用 有期雇用 | 無期雇用 有期雇用 | 契約内容次第 |
雇用契約
雇用主 | 就業先の企業 |
指揮命令権 | あり |
成果物の完成責任 | なし |
契約期間 | 無期雇用 有期雇用 |
「雇用契約」とは、労働者が就業先の企業に労働を提供し、その対価として報酬を受け取る契約です。つまり、会社の従業員となって働く雇用形態を意味します。
雇用主には、労働者への指揮命令権が発生し、業務に関係する範囲内で指示出しが認められます。ただし、労働者が提供するのはあくまでも「労働」に限定されるため、成果物の完成責任は負いません。
なお雇用契約には、無期雇用と有期雇用があります。無期雇用は文字どおり契約期間に定めのない契約で、有期雇用は上限3年間の契約です。契約期間の詳細は、雇用契約締結時に雇用主との話し合いで決定します。
派遣契約
雇用主 | 派遣会社 |
指揮命令権 | あり ※派遣会社が有する |
契約期間 | 無期雇用 有期雇用 |
「派遣契約」とは、人材を求める企業と派遣会社間で締結する契約です。派遣社員は、派遣元の企業と雇用契約を結んでおり、雇用主の指揮命令に従って外部の企業で業務を行います。
なお、派遣社員を受け入れる企業にも、一定の指揮命令権が認められる点が特徴です。ただし、この権利の対象は派遣契約によって定められるため、契約外の指揮命令権を行使した場合は、労働者派遣法違反に該当する恐れがあります。
また、派遣契約にも無期雇用と有期雇用があります。無期雇用の場合は、派遣先での業務が完了したあとも雇用が継続され、新たな企業への派遣が命じられます。一方の有期雇用は、派遣先での業務が完了すると、派遣会社との雇用も解消されるのが一般的です。
業務委託契約
雇用主 | なし |
指揮命令権 | なし |
契約期間 | 契約内容次第 |
「業務委託契約」とは、業務の一部またはすべてを外部の企業や個人に依頼する際に締結する契約です。日本の民法には「業務委託契約」という言葉はなく、正確には「請負契約」「委任/準委任契約」と呼びます。
業務委託契約は、成果物の納品や業務の遂行のみを定めているため、雇用主や指揮命令権が存在しません。また、委託者と受託者に雇用の主従関係はなく、基本的には対等の立場で取引します。
業務委託契約における委託業務の種類
一言で業務委託と言っても、製造や営業、販売など、さまざまな委託できる業務があります。ここでは、業務委託契約における委託業務の代表的な種類について紹介します。
- 製造委託:製品の生産を外部に委託
- 販売委託:販売業務を外部に委託
- 運営委託:施設等の運営業務を外部に委託
製造委託
製造委託とは、製品の生産業務を外部に委託することです。製造委託という名称ですが、委託する業務範囲が製造のみとは限りません。
たとえば、委託者が製品の設計や計画を作成し、製造業務のみを受託者が担う「OEM」や、製品の設計〜製造・販売までを受託者が担う「ODM」もこれに該当します。
販売委託
販売委託とは、自社商品の販売・マーケティング業務を外部に委託することです。「販売代理店契約」とも呼ばれ、スマホショップや家電量販店などがこれに該当します。
運営委託
運営委託とは、飲食店や介護施設、保育施設等の運営業務を外部に委託することです。たとえばホテル業界では、自社が物件のみを所有し、受付・清掃・調理等のオペレーション全般を外部の会社に任せているような事例も存在します。
業務委託のメリット
業務委託は受託者にも委託者にもメリットが大きい契約方法です。ここでは、業務委託のメリットを受託者側と委託者側の両方の視点で解説します。
受託側のメリット
業務委託で仕事を受けるメリットには、以下のようなものがあります。
- 自分の専門性を活かせる
- 勤務地や勤務時間の自由度が高い
- 収入アップを目指せる
- 人間関係の負担が少ない
自分の専門性を活かせる
業務委託では自分の専門性を活かして働くことができます。各企業は企業内部にはない専門的なスキルを求めているため、需要と供給がマッチすれば自分の高い専門性を発揮して働けます。
自分の専門性を活かせれば、仕事のやりがいを感じられ、さらに専門性が高まるきっかけとなるでしょう。
勤務地や勤務時間の自由度が高い
業務委託では、契約に基づく業務が遂行されれば業務の進め方や勤務地、勤務場所を問われません。そのため職種によっては在宅勤務なども可能で、ワーク・ライフ・バランスも達成しやすくなります。
仕事量も自分で調節できるため、副業や家事育児と両立といった働き方も可能です。
収入アップを目指せる
業務委託の時間あたりの報酬額は、雇用契約よりも高額になることが多いです。仕事を受ける量も自分で調整できるため、働けば働くほど収入を上げることができます。
また業務委託を通じてさらに専門性を高められれば、報酬単価が向上する要因にもなります。
人間関係の負担が少ない
業務委託での仕事は基本的に個人で行うため、人間関係のストレスが溜まりにくいです。もちろん取引先とのやり取りは必要ですが、雇用契約を締結している会社員よりも関わる人数や時間が少ないです。
そのため、人間関係の負担を減らしたい方にもおすすめの働き方となります。
委託側のメリット
業務委託で仕事を依頼するメリットには、以下のようなものがあります。
- 専門性の高い人材を必要な分だけ利用できる
- 人件費や育成コストを抑えられる
- 事業運営の根幹となる業務に集中できる
ここでは、それぞれを詳しく解説していきます。
専門性の高い人材を必要な分だけ利用できる
業務委託で仕事を依頼すると、企業内にはない専門性の高い人材を必要な分だけ利用できます。
専門性の高い人材を一から雇用する場合、多大な費用や研修時間などが発生しますが、業務委託であれば専門性の高い即戦力を確保できます。業務委託の受託者はさまざまな企業で仕事をしている経験があるため、企業内にはない発想やノウハウを確保できるチャンスともなるでしょう。
人件費や育成コストを抑えられる
上述した通り、専門性の高い人材の育成には多大なコストや時間がかかります。また雇用契約を結ぶ場合は、会社保険の負担や採用コスト、設備・備品の整備なども必要です。
一方で業務委託であれば、社会保険の支払いや人材育成、設備・備品の整備などが不要です。さらに時期ごとの業務量の変化にも対応しやすいため、適材適所で利用できればコストを抑えて専門的な人材を確保できるでしょう。
事業運営の根幹となる業務に集中できる
企業外部の人にも任せられる業務を業務委託で依頼することで、従業員や管理職は事業運営の根幹となる業務に集中できます。また、社内の人材が他の重要な業務に携われるため、人材育成にも繋がり、生産性の向上にもつながります。
業務委託のデメリット
一方で、業務委託には雇用契約と比較したデメリットも存在します。ここでは、業務委託のデメリットを受託側と委託側に分けて紹介します。
受託側のデメリット
業務委託で仕事を受けることには、以下のようなデメリットがあります。
- 労働基準法が適用されない
- 自身で仕事を獲得する必要がある
- 確定申告や保険料の支払いが必要
- 収入が不安定
労働基準法が適用されない
業務委託で仕事を受ける働き方をする場合、労働基準法が適用されません。突然契約がなくなる可能性があり、失業保険や労災保険も給付されません。
仕事や生活の安定性を重視する場合は、雇用契約のほうが優れていると言えます。
自身で仕事を獲得する必要がある
業務委託の仕事で働く場合、案件を自分で獲得する必要があります。当然、仕事を獲得できなければ収入を得られません。
雇用契約の会社員であれば、自ら仕事を獲得する必要がないため、業務委託のほうが負担が大きい傾向があります。
確定申告や保険料の支払いが必要
業務委託では、確定申告や保険料の支払いが必要です。給与所得を受け取る会社員であれば、年末調整が行われるため原則として確定申告は不要で、保険料の支払いも会社が行います。
一方で、事業所得を得る個人事業主は、確定申告の手続きが必要です。社会保険料の支払い・手続きも自分で行うこととなるため、手間と感じる可能性があります。
なお、副業として業務委託をする場合にも、年間所得が20万円を超える場合は確定申告が必要です。いずれにせよ、雇用契約のみの会社員に比べ、税金・保険面での手間が多くなります。
収入が不安定
上述したとおり、業務委託の働き方は、仕事がないと収入もなくなります。労働基準法の適用がないため突然契約がなくなるリスクがあり、体調不良などで働けないと収入は途絶えます。
給与所得を得られる会社員の場合、基本的に突然クビになることはなく、体調不良で休んだとしても基本給は支払われるため、業務委託の仕事で働く際のデメリットとなるでしょう。
委託側のデメリット
一方で業務委託の委託側には以下のようなデメリットがあります。
- 企業にノウハウが蓄積されない
- 情報漏洩の危険性がある
企業にノウハウが蓄積されない
業務委託では専門性の高い人材を確保できますが、契約期間が終わるとその人材は企業内に留まりません。つまり、企業内にノウハウが蓄積されないということです。
受託者側の廃業で突然契約がなくなったら、新しい受託者を探す必要があり、場合によっては今まで通りの品質を保てなくなる可能性もあるでしょう。
情報漏洩の危険性がある
業務委託では社内の情報を外部の受託者と共有するため、情報漏洩のリスクが生じます。
もちろん、契約書上で情報の取扱いを定めることは可能です。しかし実際の情報の取扱いが適正かを確認できず、万が一情報が漏洩してしまっては、多大なる損失を被る可能性もあります。
そのため、受託者に共有する情報の範囲を明確にして依頼を行うことが重要となります。
業務委託契約書の役割・目的
「業務委託契約書」とは、自社の業務を外部の企業や個人に委託する際に締結する契約書のことです。受託者の仕事が不十分だったり、委託者から一方的に解約されたりするなど、業務委託で発生しうるトラブルをできる限り防ぐために契約書が交わされます。
ただし、業務委託か雇用契約かは、契約書の名称ではなく働き方の実態で判断されます。これは、「業務委託契約書」が交わされていても、実態が雇用契約の労働者と同様の働き方をしている場合、企業に雇用された労働者とみなされることを意味します。
ここでは、業務委託契約書の種類と記載項目、作成時の注意点を紹介します。
業務委託契約書の種類
業務委託契約書は、報酬の支払方法によって「毎月定額型」「成果報酬型」「単発業務型」の3種類に分類されます。
毎月定額型
毎月決まった額の報酬を支払うことを定めた業務委託契約書です。清掃業務や保守業務、コンサルティング業務などに使われる傾向にあります。
成果報酬型
業務の成果によって報酬が変動することを定めた業務委託契約書です。営業代行業務や店舗運営業務などの業務形態で使われます。
単発業務型
原則1回の業務を委託するときに使われる業務委託契約書です。建設設計管理業務や研修業務、デザイン作成業務などに使われます。
業務委託契約書の記載項目
業務委託契約書を作成する際には、双方の意識を統一しておくことが大切です。トラブルを回避するためには、業務委託契約書に以下の内容を記載しておくと良いでしょう。
- 業務内容
- 成果物の権利
- 報酬
- 秘密保持
- 再委託
- 禁止事項
- 契約の解除
- 契約の期間
- 損害賠償
業務内容
業務委託契約書の業務内容は、具体的に記載しましょう。業務内容の定義が曖昧では、実際に作業を進めるうえでトラブルに発展しかねません。
たとえば、一連の業務を工程別に細分化し、「どの範囲を委託するのか?」「修正が発生した場合の対応」など、細かく記載します。なお、案件ごとに業務内容が異なったり、委託する業務範囲が異なったりする特殊なケースでは、追加資料をつけて双方が納得できるようにしましょう。
成果物の権利
成果物が、どの時点で誰に帰属するのかはっきりさせましょう。取引後に所有権などのトラブルとならないよう、「いつ誰に引き渡すか」「著作権は誰に帰属するの」かといった内容を記載します。
一般的に、デザイン作成やプログラミング、ライターなどの職種では、納品と同時に著作権を委託者に譲渡する旨を記載します。
報酬
報酬の金額とその内訳、報酬の支払時期と支払方法を記載します。「1枚いくら」「1人あたりの日給いくら」といったように、報酬の算定方法を細かく相談しておきましょう。
秘密保持
業務で知り得た情報を外部に漏らさないよう「秘密保持」も記載します。仕事の進め方や権利、業務に必要な内部情報などが漏洩すると、委託者に損害が発生する恐れがあるため、契約によって縛りを設けるのが効果的です。
また、万が一違反があった場合の処置について記載することで、情報漏洩の抑止力となります。
再委託
再委託とは、受託した業務を第三者に委託することです。再委託を認める場合とそうでない場合ではそれぞれ以下のメリット・デメリットがあります。
再委託を認める | 再委託を認めない | |
メリット | 受託者を集めやすい 多くの成果物を確保できる | 成果物の品質を担保しやすい 情報漏洩のリスクを抑えられる 業務・成果物の管理がしやすい |
デメリット | 成果物の品質が低下する恐れがある 業務・成果物の管理がしづらい 統制がしづらく情報漏洩のリスクが高い | 受託者が集まりにくい 発注できる業務量に限りがある |
どちらを選択するかは、委託する業務内容や事業の状況によっても異なります。上記のメリット・デメリットを踏まえ、再委託の可否を記載しましょう。
禁止事項
受託者が業務委託を受けるうえで禁止とする事項を記載します。業務委託契約では契約後の指揮命令権がないため、契約書にて禁止事項を定めておくべきです。
基本的に、契約書にて禁止事項を定めなければ、万が一受託者によって被害を受けた場合でも委託者側が補填しなければなりません。業務委託によって発生するリスクを細分化し、必要に応じて禁止事項へ記載しましょう。
契約の解除
委託者と受託者が契約を解除できる条件や方法を記載します。契約期間などの一般的な解除条件に加えて、無条件で契約解除できる条件(契約違反など)やその期間も定めましょう。
禁止事項を破った場合に契約解除を実行する旨を記載することで、リスクの防止につながります。
契約の期間
業務の開始日と終了日を明記します。継続的に業務を委託する予定の場合は、「お互いの通知がない場合は〇ヵ月自動で更新する」など、継続契約へ切り替わる旨の記載も行いましょう。
損害賠償
委託者や受託者に契約違反などがあった場合の損害賠償も、重要度の高い事項です。損害賠償について契約書に記載していない場合、委託者による一方的な契約解除で、逆に受託者から損害賠償を請求される可能性があります。
業務委託契約書の注意点
ここでは、業務委託契約の際に特に注意が必要なポイントを3つ解説します。
責任の範囲を確認する
業務委託では、契約書の名称ではなく契約内容によって「請負」か「委託/準委託」か、が判断されます。
請負契約の場合、仕事の成果物を納品するまでは報酬請求権は発生せず、受託者は委託者に対して「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」を負います。瑕疵担保責任は、受託者が仕事に瑕疵(欠陥・ミス)があった場合に負う責任のことです。業務が契約通りに行われていなかった場合は、修補や損害賠償・解除などの責任を負うこととなります。
委託/準委託契約の場合は、業務を遂行していれば報酬請求権が発生し、受託者には「善管注意義務」のみが生じます。善管注意義務は「善良な管理者の注意義務」のことで、社会通念上、一般的に注意を払うべき義務です。
業務委託契約では、業務請負なのか業務委任なのかで、その責任の範囲が大きく異なります。トラブルを避けるためには、双方の認識のズレを少なくして契約を結ぶことが大切です。
下請法を理解する
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、下請取引の公正化や下請事業者の利益保護などを目的とした法律です。以下の4つの業務を委託する場合は下請法の対象となり、親会社の義務や禁止事項などが発生します。
- 物品の製造委託
- 修理委託
- 情報成果物の作成委託
- 役務提供委託
下請法に違反すると、勧告後の違反事実の公表や50万円以下の罰金が科されるリスクが生じるため必ず事前に内容を確認しましょう。
偽装請負に気を付ける
偽装請負とは、指揮命令が禁止されている業務委託契約にも関わらず、実態は労働者派遣のように業務委託範囲外の仕事をさせている状態のことです。
【偽造請負の例】
- 業務に細かい指示を出している
- 出退勤管理をしている
- 形式的な現場責任者から個々の受注者に指示を出している
偽造請負を行うと、罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されるため、業務委託の働き方を適切に理解してください。
参考:あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? | 東京労働局
業務委託で起業するには?
上述した通り、業務委託の受注によって働くことにはさまざまなメリットがあります。ここでは、業務委託で起業する方法や必要な手続き、案件の見つけ方などを解説します。
業務委託の起業形態
業務委託の受注で起業する際は、以下のいずれかの形態となります。
副業起業
副業起業とは、会社員として給与所得を得ながら副業として業務を受注する働き方です。
業務委託の仕事は時間や場所に囚われず行えるケースが多いため、副業との相性が非常に良いです。副業起業であれば、メインとなる給与所得を得ながら副業での事業所得(もしくは雑所得)を得られるため「今の給与に加えて副収入が欲しい」という方にピッタリといえます。
個人事業の開業(フリーランス)
個人事業主として独立して、フリーランスのような働き方をする選択肢もあります。個人事業主として独立すれば、自分の理想の働き方を実現しやすく、収入アップも目指せます。
ただし、上述したように収入の不安定さなどのデメリットもあるため注意が必要です。
業務委託で起業する際に必要な手続き
業務委託で起業する際は、公的な手続きが必要となる場合があります。ここでは、業務委託で起業する際に必要な主な手続きを紹介します。
開業手続き
個人事業を開業する場合は、管轄の税務署に対して開業届の提出が必要になります。副業起業の場合も、事業規模で業務を受注するのであれば開業届を提出すべき可能性が高いです。
また、開業届に加えて青色申告承認申請書を提出することをおすすめします。
会社員を辞めて個人事業主として独立する場合は、国民年金や国民健康保険の手続きも必要です。手続き先は市区町村役場となります。
ただし健康保険については勤めていた企業の制度を任意継続する選択肢もあるため、どちらが得かを確認してください。
確定申告
業務委託で得た報酬は所得税の課税対象です。個人事業主として独立した方はもちろん、会社員でも副業での所得が20万円を越した方は確定申告が必要です。
1月1日から12月31日までの所得について、翌年の2月16日から3月15日の間に手続きを行います。
個人事業主の確定申告については、以下の記事で解説しているためぜひご確認ください。
業務委託の案件の見つけ方
業務委託での起業を成功させるには、いかに案件を獲得するかがポイントとなります。ここでは、業務委託の案件の見つけ方を大きく4つ紹介します。
知人の紹介
知人の紹介で仕事を得られるケースは多いです。とくに、元々いた職場の人脈から仕事を紹介してもらえることが多いため、仕事を辞める際は円満退職を目指しましょう。
また、個人事業主の繋がりで案件を得られる場合もあるので、起業時は人脈形成に力を入れることをおすすめします。
営業
自分で企業に直接営業を行う方法もあります。直接営業を行う大きなメリットは、自分が一緒に仕事をしたい企業と契約できる可能性がある点です。
ただし、営業先で案件があるとは限らず、他の方法と比較して成功率は低めとなります。
求人サイト
求人サイトは正社員やアルバイト以外にも、業務委託の募集をしているケースがあります。大まかな条件や仕事の内容が最初から提示されているため、自分に合った案件を見つけやすいです。
ただし求人サイトは数多く存在するため、企業の募集情報も分散されやすいです。案件を探す際は、幅広い求人サイトやサービスを確認しましょう。
クラウドソーシングサービス
クラウドソーシングサービスとは、仕事を依頼したい企業と業務委託案件を探すワーカーをマッチングするサービスです。業務委託の案件が中心となっており、案件数も多いため、最も仕事を見つけやすい方法といえます。
ただし、報酬の一部を手数料としてサービスに差し引かれる点に留意してください。有名なクラウドソーシングサービスには「クラウドワークス」や「ランサーズ」などがあります。
まとめ
業務委託契約は、受託者の働き方の自由度が高い分、責任も生じる契約です。契約内容によっては欠陥やミスが生じたときの修正だけでなく、損害賠償を請求されることもあります。
業務後に「契約と違うじゃないか」というトラブルが起きないようにするためには、業務契約前に受託者と委託者で業務内容をしっかり詰めておくことが大切です。業務委託契約書には契約内容や報酬について具体的に明記し、お互いに意識を統一できた状態で契約を結びましょう。
弊社バーチャルオフィス1では、東京都渋谷区と広島県広島市の2拠点でバーチャルオフィスを運営しています。レンタルオフィスやシェアオフィスよりも安く事業用住所を手に入れられるのがメリットです。
業務委託契約を締結することの多い個人事業主や法人の方に多くご利用いただいています。月々の固定費を抑えたい方・自宅起業をしておりプライバシーを保護したい方は、ぜひホームページをご覧ください。
この記事の投稿者
バーチャルオフィス1編集部
東京都渋谷区道玄坂、広島市中区大手町にあるバーチャルオフィス1
月額880円で法人登記・週1回の郵便転送・郵便物の来館受取ができる起業家やフリーランスのためのバーチャルオフィスを提供しています。
この記事の監修者
株式会社バーチャルオフィス1代表取締役 牧野 傑
株式会社バーチャルオフィス1 代表取締役
2022年2月に株式会社バーチャルオフィス1の代表取締役に就任。東京(渋谷)、広島にて個人事業主(フリーランス)、法人向けにビジネス用の住所を提供するバーチャルオフィスを運営している。自ら起業した経験も踏まえ、「月額880円+郵送費用」といったわかりやすさを追求したワンプランで、利用者目線に立ったバーチャルオフィスを目指している。
東商 社長ネット 株式会社バーチャルオフィス1 牧野 傑
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