
会社など特定の組織に属さずに働くことをフリーランスといい、現在では働き方の一部として広く認知されています。しかし、組織の後ろ盾がないという性質上、取引において不利な立場に立たされることが多いのも実情です。
そのような状況を打破すべく、「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス保護法)」が制定され、2024年11月から施行されることになりました。今回はこのフリーランス保護法について、詳しく解説します。
目次
フリーランス保護法とは

最初に「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス保護法)」について、基本的な部分を解説します。
フリーランスが安心して働ける環境を整備するための法律
フリーランス保護法は、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。なお、通称として「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス保護法)」が使われるので、以降は「フリーランス保護法」を用いて解説しましょう。
フリーランス保護法は、以下の2点を主な目的として制定された法律です。
- フリーランスと発注事業者との間の取引の適正化
- フリーランスの就業環境の整備
簡単にいうと「フリーランスが安心して働ける環境を整備するための法律」といえます。
対象となる当事者や取引の定義
一口にフリーランスといっても、統一された定義は存在せず、人によってイメージするものもさまざまです。ここでは、フリーランス保護法に基づき、フリーランスを含めた対象となる当事者・取引の定義を紹介します。
業務委託 | 事業者がその事業のために他の事業者に以下のいずれかの業務を委託すること ・物品の製造(加工含む)もしくは情報成果物の作成 ・役務の提供(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む) |
特定受託事業者 | 業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するものを指す ・個人かつ従業員を使用しないもの(個人事業主として働くフリーランス) ・法人かつ一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しないもの ※いわゆる「一人会社」の代表として働くフリーランス |
業務委託事業者 | 特定受託事業者に業務委託をする事業者 |
特定業務委託事業者 | 業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの ・個人かつ従業員を使用する(個人事業主であるがスタッフを雇っている) ・法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用する(法人であり、スタッフを雇っている) |
報酬 | 業務委託事業者が業務委託をした場合に、特定受託事業者の給付(役務の提供)に対し支払うべき代金 ※例:Web記事の原稿料 |
イメージとして、個人事業主もしくは一人会社の社長として仕事をしているフリーランスが、所定の条件を満たすクライアントと仕事をする場合を想定した法律と考えましょう。
下請法との違い
これまでに、フリーランスと企業等でトラブルがあった場合は、下請法に基づいて対応を進めるのが一般的でした。下請法とは、下請事業者に不利益を与える行為を禁止する法律です。
しかし、法律で想定されている「下請事業者」は、比較的資本金が大きい法人・個人が想定されています。より資本金が小さいフリーランスのトラブルに、そのまま当てはめるのは難しい部分がありました。
<下請法における「下請事業者」の定義>
取引の内容 | 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 |
①物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合 | 3億円超 | 3億円以下(個人を含む) |
1,000万円超3億円以下 | 1千万円以下(個人を含む) | |
②情報成果物作成・役務提供委託を行う場合 | 5,000万円超 | 5,000万円以下(個人を含む) |
1,000万円超5,000万円以下 | 1,000万円以下(個人を含む) |
フリーランス保護法は、下請法とは異なり、資本金要件はありません。そのため、より広い範囲でのフリーランスの保護につながります。
フリーランス保護法はなぜ制定されたのか

ここで、フリーランス保護法はなぜ制定されたのか、これまでの経緯に触れつつ解説します。一言でいうと「不利な立場に立たされるフリーランスがあまりに多かった」ためです。
不利な立場に立たされることが多かった
フリーランス新法が制定された経緯として、法人同士の取引に比べ、フリーランスが不利な立場に立たされることが多かったことが挙げられます。実際、どれだけ不利な立場に立たされることが多かったのか、公的なデータを用いて解説しましょう。
内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁は、令和4(2022)年に共同で、フリーランスの実態に関する調査を行いました。その結果を取りまとめた「令和4年度フリーランス実態調査結果」によれば、フリーランスが発注者から受けた「納得できない」行為として、以下のものが挙げられています。
納得できない行為の概要 | 回答数(割合) |
報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった | 251(11.8%) |
あらかじめ定めた報酬を減額された | 180(8.5%) |
市価などと比較して著しく低い報酬を不当に定められた | 80(3.8%) |
注文された物品等の受取りを拒否された | 34(1.6%) |
納入された物品等を返品された | 23(1.1%) |
発注者が指定する物(備品、原材料等)、サービス(有料セミナー、研修等)を強制的に購入・利用(受講)させられた | 29(1.4%) |
不当に協賛金などの金銭や、契約内容にない労務等を提供させられた | 32(1.5%) |
発注者の都合で、やり直しや追加作業を行ったにもかかわらず、それに伴う追加費用を負担してもらえなかった | 134(6.3%) |
その他の納得できない行為があった | 25(1.2%) |
特に受けたことはない | 1,632(77.0%) |
結果だけを見れば、大半の場合で特段トラブルなく取引が進んでいますが、不当な扱いを受けたフリーランスがいたのも事実でしょう。また、ごく少数ではありますが、セクハラ、パワハラ、マタハラなどの嫌がらせを受けたフリーランスもいました。
令和3年には「フリーランスガイドライン」が発表
国としても、このような状況を看過していたわけではありません。今回のフリーランス保護法の制定より前となる令和3年3月には、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が合同で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」をすでに公表していました。
同ガイドライン上では、企業とフリーランスとの取引について、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これらの法令に基づく問題行為が明確化されています。
そこからさらに一歩進め、フリーランスが直面する問題をより効果的に解決し、法の枠組みによる規制を本格化させるべく、フリーランス保護法が制定されました。
参考:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン|内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省
フリーランス保護法の具体的な内容

フリーランス保護法では、以下の7つの項目が具体的な保護策として盛り込まれています。なお、発注事業者(クライアント)が満たす条件に応じて、フリーランスに対して負う条件が異なることに注意しましょう。
- 書面での取引条件の明示
- 報酬支払期日の設定と期限内の支払完了
- 禁止行為の明確化
- 嘘や古い情報での募集の禁止
- 子育てや介護との両立への配慮
- ハラスメント防止対策の整備
- 契約終了に関するルールの明示
発注事業者の条件 | 該当項目 |
フリーランスに業務委託を行うが、従業員を使用していない ※フリーランスに仕事を頼むフリーランスもここに含まれる | 1 |
フリーランスに業務委託を行い、かつ従業員を使用している | 1、2、4、6 |
フリーランスに一定の期間以上を予定した業務委託を行い、かつ従業員を使用している | 1~7 |
1.書面での取引条件の明示
フリーランスに業務を委託した場合は、書面にて取引条件を明示しなくてはいけません。具体的には、以下の条件をはっきり伝える必要があります。
- 給付の内容(行うべき業務の内容)
- 報酬の額
- 支払期日
- 受託者や委託者の名称
- 業務委託日
- 給付の提供場所
- 給付期日
なお、書面の代わりに電磁的方法で伝えることも可能です。電子メールやSNS、ビジネスチャット等でやり取りしても問題ありません。
参考:フリーランス保護新法(第1回)ー書面等による取引条件の明示ー
2.報酬支払期日の設定と期限内の支払完了
発注事業者にフリーランスが成果物等を納品した日から数えて、60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定しなくてはいけません。報酬支払期日を設定するだけでは不十分で、その期日までに実際に報酬を支払うことも求められています。

なお、支払期日を定めていなかった場合は、以下のいずれかが支払期日となる点も覚えておきましょう。
当事者間で支払期日を定めなかった場合 | 成果物が実際に納品された日 |
成果物が納品された日から起算して60日を超えて定めた場合 | 納品日から起算して60日を経過した日の前日 |
自分が報酬を受け取る側の場合は、念のために仕事の相談があった時点で支払期日を確認することをおすすめします。
3.禁止行為の明確化
フリーランス保護法では、フリーランスに対し1ヶ月以上の業務委託をした場合、以下の行為を不当なものとして禁止しています。
行為 | 具体例 |
成果物、納品物の受領拒否 | 正当な理由もなく「いらなくなった」と一方的に受け取ってもらえない |
報酬の減額 | 「こちらが求める質に達していない」と一方的に報酬を減らされる |
返品 | 「もう必要ないから」と勝手に返送されてきた |
買いたたき | 「質が悪いからまけて」と値引きを強要される |
購入・利用強制 | クライアントが開催する有料セミナーに無理やり参加させられた |
不当な経済上の利益の提供要請 | クライアントが行っているクラウドファンディングへの参加を強要された |
不当な給付内容の変更・やり直し | 「状況が変わったから」と追加料金なしで何度もやり直しをさせる |
4.嘘や古い情報での募集の禁止
広告などでフリーランスの募集に関する情報を掲載する際、以下に当たる行為は厳しく規制されています。
- 虚偽、誤解を招く表示
- 最新のものではない古い情報の掲載
- 不正確な内容の掲載
つまり、いわゆる「おとり広告」「釣り広告」にあたるものや、アップデートされていない内容での募集は、れっきとしたフリーランス保護法違反と考えて構いません。
5.子育てや介護との両立への配慮
6ヶ月以上の業務委託となる場合、育児や介護と業務を両立できるよう、配慮が求められます。以下のようなシチュエーションを考えるとわかりやすいでしょう。
- 「子どもが入院したので、納期を調整して欲しい」という申し出に対し、納期を後ろ倒しにする
- 「介護帰省が必要になるので、その間はリモートワークがしたい」という申し出に対し、リモートワーク対応を認める
なお、やむを得ず配慮ができない場合は、その理由について説明することが必要です。説明もなく断るのはフリーランス保護法違反となります。
6.ハラスメント防止対策の整備
簡単にいうと、セクハラ、パワハラ、マタハラなどのハラスメント=嫌がらせが起きないよう配慮が必要ということです。具体的には、以下の措置を講じることが求められています。
- ハラスメントを禁止する方針の明確化、およびその方針の周知・啓発
- 相談・苦情への適切な対応体制の整備
- ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な対応
7.契約終了に関するルールの明示
6ヶ月以上の業務委託の中途解除、更新終了の場合は、以下の2点を遵守しなくてはいけません。
- 原則30日前までに予告する
- 予告日~解除日の間に請求があった場合は理由の開示を行う
フリーランス保護法の違反行為を受けた場合は?

フリーランスとして働いている人が、フリーランス保護法に違反すると思われる行為を受けた場合の対処法について解説します。
まずは「フリーランス・トラブル110番」に相談
フリーランス保護法違反が疑われる場合の公的な相談先のひとつに、「フリーランス・トラブル110番」があります。これは、厚生労働省からの委託を受けて、第二東京弁護士会が運営する相談窓口です。
次に該当する行為は、フリーランス保護法違反となる可能性が極めて高いといえます。すぐにフリーランス・トラブル110番に相談しましょう。
- 作業を依頼されたのに報酬をはっきり伝えてもらえない
- 口頭でのやり取りのみで仕事が依頼され、契約書を作ってもらえない
- 暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりした
- 「デートを断ったらもう仕事は回さない」などセクハラまがいの言動をされた
- 何ら落ち度はないのに一方的に報酬を減額された
- 納品後、発注者と連絡が取れなくなったうえに報酬が未払いのままになっている
上記以外のトラブルの場合でも、判断に迷う場合は相談してかまいません。なお、相談は電話もしくはメールにて受け付けています。
電話相談の場合 | 0120-532-110 (受付時間9:30~16:30/土日祝日を除く) |
メールの場合 | 公式サイト上の「お問い合わせフォーム」から連絡 |
なお、相談をする際は次の項目をメモにまとめておき、他に証拠や資料がありそうなら準備しておきましょう。
- 何に対する相談か
- トラブルの時系列別まとめ
- 質問事項のまとめ
申告に基づく立入検査
フリーランス保護法では、フリーランス(特定受託事業者)が企業(違反事業者)から違反行為を受けた場合の法的な扱いについても定められています。2024年11月1日以降、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に設置する窓口へ申告することが可能です。
申告を受けた場合は、以下の対応が行われます。なお命令違反や検査拒否等があった場合は、50万円以下の罰金が科せられます。
- 報告徴収・立入検査
- 指導・助言
- 勧告
- 勧告に従わない場合の命令、公表(命令違反には50万円以下の罰金)
状況次第では刑事罰も
フリーランス保護法に違反したからといって、即座に刑事罰が科せられるわけではありません。報告徴収・立入検査を受けて行われた指導・助言、勧告に従ったのであれば、特段刑事罰は課せられないでしょう。ただし、従わなかった場合は以下のように刑事罰が科せられます。
内容 | 具体的な刑事罰の内容 | フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)における根拠条文 |
フリーランス保護法違反があった場合に、公正取引委員会や厚生労働大臣による命令に違反した | 50万円以下の罰金 | 24条第1項 |
フリーランス保護法により義務づけられた報告をしなかった、もしくは検査を拒んだ | 50万円以下の罰金 | 24条第2項 |
フリーランス保護法により義務付けられるハラスメント防止措置に関する報告しなかった、もしくは虚偽の報告をした | 20万円以下の過料 | 26条 |
トラブル防止のためにバーチャルオフィスの活用を
フリーランス保護法を一言でまとめると「フリーランスをトラブルから守るための法律」といったところです。文中でも触れたように、フリーランスは会社員など所属先からの保護がある程度受けられる立場ではないことから、不利な立場に立たされてしまう傾向がありました。しかし、法律が整備されたことで、トラブルの防止や発生した際の適切な解決に徐々に結びついていくでしょう。
ただし、フリーランスとして仕事を行うにあたっては、取引先との関係以外にも、さまざまなトラブルを見据えて動かないといけません。ひとつの対策として必要になるのが、プライバシーの保護です。業務の内容にもよりますが、従業員を雇わず、自分だけで仕事をするなら自宅でも十分こなせるかもしれません。コストの面でも望ましくはありますが、対外的なやり取りにまで自宅の住所を使うのは考えものです。不特定多数に住所を知られる可能性がある以上、自分や家族が危害に遭う可能性もある点に注意しなくてはいけません。
そこでバーチャルオフィスを利用すれば、毎月数百円〜数千円程度の出費で対外的なやり取りに使う住所を確保できます。バーチャルオフィス1では、月額880円+郵送費用(税込)の会費で、法人設立やWebサイト・名刺に掲載できる住所をご利用いただくことが可能です。郵便物転送サービスなど便利な機能もご利用いただけるので、ぜひご検討ください。
まとめ
個人が自分の得意なこと、好きなことを活かし、私生活と両立させられる働き方としてフリーランスは注目されてきました。しかし、会社など組織の後ろ盾がないため、不利な立場に追いやられやすかったことから、法律による保護の枠組みが長年求められてきたのも事実です。フリーランス保護法が制定されたことで、今後、ますます会社員にとっても、フリーランスにとっても働きやすい世の中になっていくでしょう。
なお、フリーランス保護法の施行に合わせ、フリーランスも労災保険の特別加入の対象となりました。つまり、自分で労災保険料を払う必要はあるものの、仕事中・通勤中にけがをしたなど、一定の事由に当てはまれば補償が受けられるようになります。
フリーランスであっても、法律の枠組みで受けられる保護は広がっています。困ったら1人で悩まず、専門家に相談し解決しましょう。
参考
【関連記事】フリーランス新法とは? | 社会保険労務士法人プラットワークス
この記事の投稿者
バーチャルオフィス1編集部
東京都渋谷区道玄坂、広島市中区大手町にあるバーチャルオフィス1
月額880円で法人登記・週1回の郵便転送・郵便物の来館受取ができる起業家やフリーランスのためのバーチャルオフィスを提供しています。
この記事の監修者
株式会社バーチャルオフィス1代表取締役 牧野 傑
株式会社バーチャルオフィス1 代表取締役
2022年2月に株式会社バーチャルオフィス1の代表取締役に就任。東京(渋谷)、広島にて個人事業主(フリーランス)、法人向けにビジネス用の住所を提供するバーチャルオフィスを運営している。自ら起業した経験も踏まえ、「月額880円+郵送費用」といったわかりやすさを追求したワンプランで、利用者目線に立ったバーチャルオフィスを目指している。
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